遊び終えたら箱は畳んで捨て、説明書はいつの間にか無くなっていた。そうやって手放してきたはずの古いゲームソフトが、いま思いがけない値をつけて、人の手から手へ渡っている。そんな話を、ここ数年、幾度か耳にします。骨董を扱う者の目で見ると、この出来事には、器や刀とほとんど同じ物差しが働いています。値段の話は、いちばん最後に。まずは、なぜ値がつくのか、その順番からご一緒に。

なぜ値がつくのか——骨董と同じ物差しで
骨董で値を決めるのは、名前の大きさや人気そのものではありません。先に見るのは、失われやすいものが、どれだけよい状態で残ったか。器でいう共箱と箱書き、刀でいう拵えと伝来にあたるものが、ゲームソフトにもそっくり備わっています。
- 箱と説明書のそろった完品。器の共箱と同じで、本体より先に捨てられやすいものが、そろって生き延びている。誰もが遊び、誰もが箱を捨てた。だからこそ、捨てなかった一群が細く残り、そこに値がつきます。
- 未開封のもの。開けていないという一点が、来歴の証になります。ただし、控えめに申し上げると、ここはいちばん慎重に見たいところです。包み直し(リシール)という手が知られていて、骨董でいう後補や写しと同じ用心が要ります。真新しく見えるものほど、封の質や角の傷みを、急がず確かめたい。
- 発行数と時期。短命に終わったハードのソフト、初期の版、店頭から早く消えた作。数の少なさは、そのまま伝来の細さです。
つまり値を押し上げているのは、「よく残っていること」ではなく、「よく残っていないこと」のほうなのです。
箱も説明書もなくても、値がつくことがある
では、箱も説明書もない裸のソフト一本には、値がつかないのか。そうとも限りません。中身そのものが十分に希少であれば、付属の欠けを、希少さが上回ることがあります。ごく少数しか出回らなかった版、限られた場でだけ配られたもの、正規の流通に乗らなかった一本。こうした品では、箱の有無より先に、「そのソフトが現に何本残っているのか」が効いてきます。器でいえば、共箱を失っても、見込みの景色そのものが得がたいなら手が伸びる。それと同じ理屈です。
ただ、これはどちらかといえば例外の話です。世に出た裸のソフトの多くは、やはり裸のソフトとして扱われます。「うちのも、もしや」と思ったときほど、値段を思い描く前に、一本の状態と、それが本当に少ないものなのかを、静かに確かめたいところです。
これは、少し微妙——上がりにくいもの
逆に、値のつきにくいものもあります。いちばん誤解されやすいのが、「あれほど人気だった名作なら」という思い込みです。よく売れ、長く愛された作ほど、たくさんの家に大切に残っている。みんなが取ってあるものは、探せばいつでも見つかります。だから値は、静かなままのことが多い。
状態が並で、箱に潰れや日焼けがあるもの。後の年に出た再販版や廉価版。こうした品は、思い出の値打ちは少しも変わらなくても、値段の話になると控えめになります。骨董でも同じで、数が多く状態が普通のものは、いくら由緒を語ったところで、値段は静かです。ここを取り違えると、期待だけが先にふくらんでしまいます。
なぜ、人はそれを買うのか
ここからは少し離れて、買う人の側から考えてみます。値段は、品物だけでは決まりません。求める人の胸の内にも、理由があります。
古いゲームソフトを高く求める人の多くは、たぶん、もう一度遊びたいから買うのではありません。あの長い夏休み、ブラウン管の前、隣で笑っていた誰か。手放してしまった時間のほうを、もう一度だけ手元に置きたいのだと思います。品物についているのは、値札の数字だけではない。世代がまるごと分け合った記憶が、静かに乗っています。だから、機能としては同じ一本でも、ある人には、取り返しのつかない一年ぶんの重さを持つことがあります。
そして、ここにささやかな皮肉があります。値がついたのは、みなが手放したからです。誰もが箱を捨て、説明書を無くし、遊び終えたおもちゃとして片づけた。その大量の「手放し」があったからこそ、残った一群は細くなり、値が生まれた。「大切に取っておけばよかった」と、私も、この仕事をしながら幾度となく思います。けれど、取っておけたのは、それを要らないものだと思わなかった、ごく一部の人だけでした。捨てたことを悔いる必要は、たぶんありません。捨てられたからこそ、残ったひと握りが、いま静かに光っているのです。
終わりに——値段は、いちばん最後に
最後に、値段の話をします。手元の一本に値がつくかどうかより、先に見てほしいのは、それがどんな時間を渡ってきたか、です。箱と付属を分けずに、まず写真を一枚。真贋や相場は断じず、専門の店や鑑定の窓口で、急がず確かめる。値段は、いちばん最後に。それは器でも刀でも、遊び終えたカセット一本でも、変わりません。
参考
相場や価格は変動します。個人間の取引やオークションでの注意点は、国民生活センターなどの公的な窓口も参考になります。