店先に外国からのお客様がいらして、浮世絵や刀剣、根付のことをお尋ねになる機会が、このところ増えてまいりました。「日本の骨董は、今の海外市場でどのくらいの値がついているのか」というお話です。数字だけを追いかけますと見誤りやすいお尋ねでございますので、本日はその見立ての立て方を、順を追ってお話しさせていただきます。

遠くの噂話ではなく、目の前の動きとして
海外のオークションハウスが日本の古美術を扱う場面は、決して珍しいものではございません。ロンドンやパリ、ニューヨークの会場で、浮世絵や刀剣、工芸品が独立した一区画として組まれることもございます。大英博物館やボストン美術館をはじめとする欧米の美術館は、明治期からすでに日本美術を集めてきた歴史を持ち、その積み重ねの上に今日の市場の厚みがある、とまずは捉えていただくのがよろしいかと存じます。関心は突然わいたものではなく、長い年月をかけて育ってきたものでございます。
浮世絵——版という仕組みが海を越えやすくした
浮世絵は木版画という性質上、同じ図柄が複数枚刷られております。この「複数性」が、海外での流通のしやすさにつながってきたと申せます。実際、葛飾北斎の代表作の一図が、パリの大手オークションハウスで数千万円台の値をつけたと伝えられる時期もございました。国内のオークションでも、北斎の肉筆画が国内史上最高額の一つとして話題を集めた例が、つい最近ございます。ただし、いずれも特定の時期・特定の一点についての記録であり、同じ図柄の別の一枚が同水準で取引される保証はございません。刷りの状態や色の残り方、来歴の有無によって評価は大きく分かれ、相場は出品時の話題性によっても動きます。「浮世絵は高い」とひとくくりにせず、一枚一枚をご覧になる姿勢が近道でございます。
刀剣——美術品としての目と、国境という壁
刀剣は浮世絵とは異なり、一点ものとしての性格が強い品でございます。海外の美術関係者の間でも、日本刀は武器としてよりも彫刻に近い美術品として鑑賞される向きが強く、地鉄の働きや刃文の景色に静かな評価が寄せられていると聞きます。刀剣そのものの見どころにつきましては、刀剣の魅力を辿った稿に譲りたく存じます。ここで申し上げたいのは、刀剣は輸出の場面で他の品目より慎重な手続きを要する場合がある、という点です。国宝・重要文化財に指定された品は原則として国外への持ち出しが認められておらず、未指定の品であっても、通関の際に該当しないことの証明を求められる場面がございます。迷われたときは、早い段階で専門機関にお尋ねになるのが賢明かと存じます。
根付——掌の中の物語が、遠い部屋の棚に並ぶ
根付は掌に収まるほどの小さな品ながら、明治のころから海外の蒐集家に愛され、今なお欧米に熱心な愛好家層を持つ、いわば先に海を渡った工芸でございます。国際根付協会という蒐集家・作家の集まりが世界規模の大会を開くほど、厚い層を築いてまいりました。上質な品の多くが早くから海外に流れた経緯があるためか、国内より海外での評価が先に立つ、逆転した状況が起きやすい品目とも申せます。
品目ごとに見る、海外で評価される観点と流通の留意点
| 品目 | 海外で評価される観点 | 流通の留意点 |
|---|---|---|
| 浮世絵 | 刷りの状態・保存された色・来歴。名品ほど同じ図柄でも一枚ごとの差が問われる | 版の複数性ゆえ流通量は比較的多いが、状態差で評価が大きく分かれる |
| 刀剣 | 地鉄・刃文など見どころを美術品として鑑賞する姿勢 | 国宝・重要文化財は輸出不可。未指定品も通関時に証明を求められる場合がある |
| 根付 | 彫りの細やかさと物語性。海外蒐集家層の歴史的な厚み | 上質な品ほど早くから海外へ渡った経緯があり、国内相場の参照材料が少ない場合がある |
里帰りという動き——海を渡った品が、また戻ってくるとき
面白いのは、こうして海を渡った品が、時を経て日本に戻ってくる場面があることです。海外のコレクションが整理されるとき、あるいは収蔵方針が見直されるとき、かつて渡った浮世絵や刀剣、工芸品が国内の商いの場に里帰りとして姿を見せることがございます。国内の高額落札の話題を追いますと、こうした里帰り品が注目を集めた例も見受けられます。具体的な例は高額落札の事例を辿った稿にまとめておりますので、あわせてご覧いただければと存じます。里帰りだからといって必ず高値がつくわけではなく、来歴の裏付けがあってこそ評価に厚みが増す、とお含みおきください。
為替と話題性——相場は生きものとして動く
相場と申しますのは、生きもののように動くものでございます。円安が続く局面では、外国のお客様に日本の品が相対的に求めやすく映ることがございますし、円高の局面ではその逆の見方もございます。話題性も同様で、大きな展覧会や周年行事、著名な蒐集家のコレクション整理などが重なりますと、特定の作家や図柄に一時的な注目が集まることがございます。ただ、これらはあくまで傾向としてのお話であり、「今求めれば値上がりする」とお約束できるものではございません。骨董は、値上がりを見込んで求めるものというより、手元に置いて眺める楽しみを見込んで求めるもの、と私どもは考えております。
国内の目線との温度差、そして手元に置く前に確かめたいこと
最後に申し上げたいのは、海外での評価と国内での評価には、しばしば温度差があるということです。国内では地味に見える品が海外では熱心な支持を集めていたり、国内で名品とされる品が海外ではさほど話題にならなかったりすることは、珍しくございません。ご自宅に眠っている品がどちらの目線でどう評価され得るのか、お一人で判断せず、まずは見ていただくところから始めるのが、遠回りのようで実は近道でございます。ご実家の蔵の品を査定に出す際の心構えもあわせてご覧いただければ、次の一歩が見えてくるかと存じます。焦らず、順を追って確かめていただければ、迷いはおのずと晴れてまいります。
参考
古美術品輸出鑑査証明(国宝・重要文化財の輸出禁止と証明制度)、北斎「雪中美人図」国内落札6億2100万円の報道(日本経済新聞)